最強に怖い映画 邦画 オーディション

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ナイトメア・シンジ

大学時代に現劇団の前身「スパースターノイローゼ」旗揚げ。 1989年劇団「営業二課」設立。 1997年松竹シナリオスクール卒業。 フェニックス掌編文学賞入賞。 2009年8月から2017年2月まで中央林間カルチャースタジオ演技講師に就任。 現在は映画脚本、舞台演出、脚本、ラジオドラマ制作、リーディング講師など精力的に活動中。 演技指導はマンツーマンを基本に行っている。 日本劇作家協会会員。 劇団営業二課主宰。 横須賀まなび館演技講師。

【ナイトメアファミリー誕生秘話はこちらから】

今回ははじめに、本題の最強に怖い映画 邦画 オーディションとは、違う話をしたいと思います。前置きとしてはやや長くなりますが、必要な前置きですので少しこらえてほしいと思います。

最強に怖い映画 邦画 オーディション

【ふたつの物語】

1つ目の話・「モウ」

とある学者が、学生を相手にこんな質問をしました。

「おばけはなんと鳴くか」

すると多くの学生は、「おーばーけー」といった具合に、なかば巫山戯た調子で答えたのだそうですが、長野県出身の学生がひとりだけ、明確に、「おばけは〝モウ〟と鳴きます」と答えたのだと言います。

まるで牛のようだなと学者が言うと、学生の言うには、「〝モウ〟以外の鳴き方があるとは思えなかった」
のだそうです。

僕などは、そもそも〝鳴く〟のか――といった部分から疑問を覚えるのですが、とりあえずその学生にとっては「おばけは鳴くもの」であり、かつ、その「鳴き声」は「モウ」である――ということが「常識」だったということです。

このエピソードは、民俗学者の柳田国男の記した「妖怪談義」という本に見ることができます。これが1つ目の話です。

2つ目の話・「てれすこ」

これは知っている方も多いかと思いますが、いちおう紹介しておきます。

ある漁村で、誰も見たことのない魚が取れました。そこで殿様の命令のもと、いろんな人にその魚の正体を尋ねるのですが、わかりません。しまいには立て札を立てて、魚の正体について知っているものを募集したほどです。もし知っているものがいれば、褒美を取らせる、という懸賞付きの募集です。

しかし、そこまでしても魚の正体を知っているものは現れません。これはもう諦めるしかないかと思い始めたころ、ひょっこりと1人の男が現れ、「その魚の名前は〝てれすこ〟といいます」とあっさりと言ったのだそうです。

誰もがそれを訝しく思うのですが、なにぶん知っている人間がいないものだから、否定のしようがありません。仕方がなく、殿様はその男に懸賞をあげることにしました。しかし、仮にも殿様です。それでは終わりませんでした。

家臣に命令して、「てれすこ」なるその魚を日干しにさせて、ふたたび民衆に呼びかけるのです。「ふたたび正体不明の魚が見つかった。知っているものは申し出よ」もちろん、今回も懸賞金付きです。

そうすると、また例の男がやってきて、その干した魚を見るなり、言うのです。

「これは〝すてれんきょう〟と呼ばれる魚でございます」

それを聞いた殿様は、急に眉を釣り上げて怒鳴りつけます。

「この干し魚は、先日おまえが〝てれすこ〟だといった魚を干したものだ。なのにお前は、この魚を〝すてれんきょう〟などという。同じ魚なのに、どうして先日と今日で呼び名が違うのか。お前は、褒美欲しさに嘘を言ってわしを騙したのだ。許せぬ。打首に処する」

すると男は、さめざめと泣きながら、「息子に向けての遺言」という形式をとって、こう言うのです。

「どうか息子には、イカの干したものをスルメと呼んではならないと伝えたい」

それを聞いた殿様ははたと膝を打っていいます。

「なるほど。おまえの言葉が嘘か本当かは知らないが、その知恵は素晴らしい。それに免じて許してやる。懸賞金もやろうではないか」

めでたし、めでたし。

これは、少し説明が必要かもしれません。

男は、おそらくですが、懸賞金欲しさに嘘を言ったのでしょう。そして殿様は、〝てれすこ〟の干したものを男に見せて、その嘘を暴いたのでしょう。そこで男は、咄嗟にこう考えたのです。

「イカの干したものを〝スルメ〟と呼ぶように、〝てれすこ〟もまた、干すと名前が変わって〝ステレンキョウ〟となるのだ。そういう〝設定〟にすれば、嘘にはならない」

しかし、殿様に対して直接話しかけることはできません。無礼な行為として許されていないのです。そこで、さっきの考えを「息子への遺言という形式」で(つまり、直接殿様に話しかけない形で)言ったのです。

殿様はそれを見抜いて、その知恵に感心した――というお話です。

【知らないうちに歪んでいる】

犠牲者になりたい――と思う人は、おそらくいないのではないでしょうか。ところが、知らないうちに犠牲者になることを、みずから選んでしまう場合があります。強制されるのではなく、みずから選んでしまうのです。自分でも気づかないうちに・・・・・・。

そうなると人間関係のこじれから、ひどい場合は鬱病などにつながってしまったりといった場合もあります。

そうならないためにはどうすればいいのか、それを考えてみたいと思います。今回、題材とするのは、「オーディション」というタイトルの邦画です。最強に怖い映画――と言われることもあるみたいですが、果たして・・・・・・。

最強に怖い映画 邦画 オーディション

【内容の紹介(ネタバレありにつき、閲覧注意)】

邦画「オーディション」は最強に怖い映画と言われることもありますが、では、どんな内容なのか、まずはその内容を紹介いたします。ネタバレを含みますのでご注意ください。・・・・・・とはいっても、すじがきは(こういってはなんですが)そうたいしたものではありません。

主人公は妻を失くした男です。名前は青山。ビデオ制作会社の社長です。妻をなくしてからは息子と2人暮しをしていましたが、その息子にも恋人ができ、また息子から再婚を勧められたこともあり、青山は再婚について考えるようになります。

しかし1人で悩んでいても仕方がないので、それを知り合い(吉川)に相談します。そうしたところ、吉川は言います。

女優のオーディションを行って、その中から再婚相手を選んだらどうか――と。青山はあまり乗り気ではなかったものの、オーディションを開催。すると、そこに気になる女がやってきます。気遣いのできるその女は、名を麻美といい、青山は魅せられます。そして実際に交際を始めます。

交際はだんだんと深まっていき、体を重ねるにまで至り、「私だけを愛してね」とまで言われるようになります。

その言葉を、青山は受けれます。

ところが、問題は「愛」という言葉の指す意味でした。

麻美は、過去に暴力を受けて育ってきた経緯がありました。そのため、いつしか、「相手に痛みを与えること」が、「愛」なのだと思い込むようになっていたのです。

青山と体を重ね、そして「私だけを愛してね」とまで言った麻美としては、もちろん青山が最大の「愛」の対象ということになります。

青山は、麻美に痺れ薬を盛られ、動けなくなったところを拷問されます。目の下や腹などを針で刺されるなど・・・・・・。最終的にどうなるかというと、麻美は息子に階段から突き落とされて殺されてしまいます。

【怖い・・・・・・だろうか】

あらすじだけ見れば、言ってみれば「ありがち」な話です。もし、この「オーディション」という邦画が最強に怖い映画なのだとすれば、きっと、拷問シーンということになるのではないでしょうか。役者の演技力や映像技術などによって、よりリアリティのあるシーンという意味で・・・・・・。

もしくは、カット割りとか、カメラのパンなどによって、急に画面に何かが映り込んでくるといった、どっきり要素など・・・・・・。

少なくとも、あらすじには、さほどの怖さはないと思われます。もちろん、麻美の過去をたどっていく過程などはサスペンスの要素もあって、そういった意味でも楽しめるとは思いますが、それらが「最強に怖い映画」かというと、ちょっと首をかしげてしまうところです。

ですが、もし、この「オーディション」という映画の内容が事実だとしたらどうでしょう。もちろんフィクションですが、もし本当だとしたら、最強に怖い映画――の評価も頷けるのではないでしょうか。

オーディションは邦画ですから、そこに出てくる問題(とくに虐待など)が、よりリアルなものに感じられることと思います。そのリアリティが、なお最強に怖い映画という評価を上げることになるでしょう。

とはいえ、やっぱりフィクションです。それを、もし実話だったら――と前提のもとに話しても仕方がないことです。ですが、本当にそうでしょうか?­ 本当にフィクションの中のことと割り切ってしまうことができるでしょうか。

最強に怖い映画 邦画 オーディション

【それはありえない話ではない】

さて、ここで少しはじめの話に戻ってみたいと思います。柳田国男がおばけの鳴き声はどういうものかと学生に尋ねた時、多くの生徒が「おーばーけー」などと言っていたのに対して、信州出身の生徒が1人だけ「モウと鳴きます」と決然と答えています。

しかもその生徒は、柳田が指摘するまで、それが「当たり前のこと」だと信じていたわけです。こうしたことは、たまにあることです。幼いころに入ってきた情報を、それが事実ではないこと、あるいは常識ではないことであったとしても、それが事実だと、または常識的なことだと、思い込んでしまうのです。

幼い頃は、持っている知識が少ないですから、疑うことができません。だから信じてしまうのは仕方のないことではあります。問題は、その思い込みが、大人になっても、誰かから指摘されるまで気づかない場合がある、ということです。

僕自身もそういった経験があって、薬局で買った薬で対処すれば良いと思っていた症状が、実は診察を受けてきちんと対処しないと呼吸困難が続いてしまうものだったということがありました。

こうした、「単なる誤り」であれば、指摘すれば済む話ですが、そうではない場合があります。
それが、今回の主題です。つまり、本人も気づかないまま「犠牲者になってしまう」場合です。

【男は悲しかったわけではない】

また初めの話に戻ります。今度は、てれすこの話です。男はてれすこを干したものをすてれんきょうと呼ぶ、という主張を、泣きながら話した、と言いました。すでに説明した通り、殿様に対して直接口を聞くことが許されていなかったからです。

では、なぜ泣いたのでしょうか。これもすでに書いたことですが、殿様に直接ものを言えない以上、言葉にするには、別の形を取らなくてはいけません。そこで男は、「息子への遺言」という形式をとったのです。

そして遺言であれば、死ぬことを前提としているわけですから、悲しい様子を出さなくては、それらしく見えません。だから泣いたわけです。

つまり、悲しいから悲しんでいるのではなく、反抗心を表現するために悲しむ姿を見せているわけです。つまり「犠牲者」になってしまうわけです。こうしたことは、現実に起こり得ることです。決して、低い確率でというわけではなく・・・・・・。

どうしてこういったまだるっっこしい表現の仕方をすることになってしまうのかというと、例えば、「犠牲者」になることで「救援者」からの助けを引き出そうとするとか、「自分がこんなにも惨めなのはお前のせいだ!」と態度で示すことをどこかで覚えてしまったからだとか、詳しい理由を話すとすごい量になってしまいます。なのでここでは書ききれません。

それらの話を踏まえた上で、もう一度、邦画「オーディション」を見直してみたいと思います。

最強に怖い映画 邦画 オーディション

【なぜ麻美はSなのか】

あらすじの紹介でも書いた通り、麻美はとんでもないサディストです。ですが、同時にマゾヒストでもあるのです。なぜなら、「痛み」を与えること・与えられることが愛であり、それを実際に行動に起こしているからです。

みずからは成長の過程で虐待といった形で痛みを与えられ、愛している相手(青山)には同じ方法で痛みを与えています。ですが、サディズムやマゾヒズムだけではありません。その背景には、みずから気づかないうちに「犠牲者」となっている――と考えることもできます。

幼いころの麻美は、もしかしたら「私はおまえら(大人たち)の〝愛〟のせいでこんなにも傷ついている」と表現していた――とは考えられないでしょうか。

もしくは、本当に「痛みを与えること」が「愛」だと「勘違い」していたのかもしれません。ちょうど、おばけの鳴き声は「モウ」だ――と長野県出身の生徒が思い込んでいたかのように・・・・・・。

【もし、あらすじに恐怖を見出すのだとすれば】

最強に怖い映画――ということでオーディション」という邦画を紹介してきたわけですが、先にも書いたように、もし恐怖が描かれているのだとすれば、拷問シーンの映像的な要素が大きいでしょう。

ですが、長く説明してきたような過程で、「勘違い」が解消されていなかったり、気づかないままに「犠牲者となること」はありえます。ちなみに、「犠牲者」がいるということは「救援者」もいるし、当然「迫害者」もいます。

そうした現象は、犯罪にならないレベルでは、けっこう日常的にあるものです。今回紹介した邦画「オーディション」を、もし最強に怖い映画と評価するならば、本当は日常的にあるものに、そうだとは気づかず、完全に虚構の世界として「オーディション」という邦画の制作に当たっている状況、またはこの邦画を観覧している状態なのではないか――と思います。

「起こりうるもの」を「起こりえないもの」と認識した上でこの作品に関わっていること、その背景には、この邦画の内容が現実になるうるおそれがあること、そういったことに気づいた時に、「オーディション」は「最強に怖い映画」としての真価を発揮することでしょう。

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大学時代に現劇団の前身「スパースターノイローゼ」旗揚げ。 1989年劇団「営業二課」設立。 1997年松竹シナリオスクール卒業。 フェニックス掌編文学賞入賞。 2009年8月から2017年2月まで中央林間カルチャースタジオ演技講師に就任。 現在は映画脚本、舞台演出、脚本、ラジオドラマ制作、リーディング講師など精力的に活動中。 演技指導はマンツーマンを基本に行っている。 日本劇作家協会会員。 劇団営業二課主宰。 横須賀まなび館演技講師。

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