カルト映画 シャークトパス

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ナイトメア・シンジ

大学時代に現劇団の前身「スパースターノイローゼ」旗揚げ。 1989年劇団「営業二課」設立。 1997年松竹シナリオスクール卒業。 フェニックス掌編文学賞入賞。 2009年8月から2017年2月まで中央林間カルチャースタジオ演技講師に就任。 現在は映画脚本、舞台演出、脚本、ラジオドラマ制作、リーディング講師など精力的に活動中。 演技指導はマンツーマンを基本に行っている。 日本劇作家協会会員。 劇団営業二課主宰。 横須賀まなび館演技講師。

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カルト映画 シャークトパス

【ただよう笑い】

発端は、ブルーウォーター社の社長・ネイサンの欲望でした。ネイサンには、娘がいました。名前はニコール。しかしネイサンは、娘をニコールという名ではなく、いつも親しみをこめて「パンプキン」と呼んでいました。ニコールも、「パンプキン」という言葉には親しみが込めていると分かっているのですが、その呼び方が気に入りません。それでいつも、「パンプキン」はよしてほしいと言っていたのですが、ネイサンはあらためることがありませんでした。仲のいい親子なのですが、そこは別の見方をすれば社長と部下でもあります。

ネイサンは、娘のニコールに命じます。生物兵器を作れ――と。ニコールはその命令に従って、遺伝子を改造した生物兵器の製造に成功します。その生物兵器の名はS-11。生物兵器と言っても、感染力の高い病原菌のようなものではありません。そうではなく、別々の動物を遺伝子の操作によって組み合わせた、物理的な破壊力と俊敏な機動性をもった、凶悪な生物兵器です。

はじめは脳に線を繋ぎ、その行動を制御しました。そして、人間を襲う生き物を退治するなど、人間の味方として行動をします。いや、させられている、というべきでしょうか。どちらにせよ、S-11は、人間にとって力強い味方でした。

ところが、ある日のことです。とあるヨットクルージングが、S-11の脳を制御する線に接触。このせいで、線が脳から離れてしまいます。脳が制御から外れたS-11は、それをきっかけに暴走を始めるのです。次々と人を襲っては殺害するS-11。

ブルーウォーター社の社長であるネイサンは、かつての社員だった男、アンディに、S-11の生け捕りを依頼。アンディはその依頼を受けます。そして生物兵器の製造者であるニコールと組んで、S-11の捕獲に取りかかります。

ところがS-11は、一筋縄で片付く相手ではありませんでした。戦闘力が高いだけではなく、極めて狡猾でもあったのです。いったんは補足して麻酔銃を打ち込むところまでいくのですが、S-11は、自分に打ち込まれた麻酔銃をすぐに抜いてしまうために効きません。

さらにアンディたちは、S-11の捕獲、もしくは殺害のために、待ち伏せなどの作戦を用いて戦います。が、作戦においてもS-11のほうが1枚上手でした。S-11は、アンディとニコールが待ち伏せをするだろうと読み、その待ち伏せ先へ、先に潜伏していたのです。

きっと軍をあげて対抗すれば勝てない相手ではないのですが、なにしろ相手は生物兵器です。そして作ったのは民間の企業です。軍をあげるような大掛かりな作戦を取れば、ブルーウォーター社は大きな責任を負わされることになります。

だから、あくまで秘密裏に、かつ非公式な形で対応せざるをえません。だから軍隊を動かすような真似はできません。なので、海軍の一部だけが、S-11への応戦に協力していました。アンディとニコールは追い詰められます。そこへとどめとばかりにS-11が襲いかかります。が、この危機はブルーウォーター社の社長であり、かつニコールの父であるネイサンが体を張って庇ってくれたおかげで切り抜けることができます。

ネイサンは、ニコールたちを庇った際、致命傷を受けてしまいますが、その死に際に遺言を残します。「S-11には起爆装置が仕掛けてある。それを起動させれば退治することができる」ニコールはパソコンからその起爆装置の起動に取り掛かりますが、パスワードが設定されていてそれを乗り越えることができません。あらゆる単語を試すも、ロックはなかなか解除されません。

そこでニコールが最後に試した言葉が「パンプキン」でした。その言葉は大正解でした。ロックは解除され、起爆装置が起動。ついに生物兵器S-11を撃退することができるのです。と、これが、今回紹介するカルト映画の大まかなあらすじです。

こう書くと、ホラー映画とかパニック映画の王道を描いた作品のように見えます。いえ、実際に王道を描いているのでしょう。が、この映画はカルト映画です。これほどに王道をいく筋立ての映画なのに、なぜカルト映画と言われているのでしょうか。

【どうしてそうなった・・・・・・】

まず、このカルト映画のタイトルですが「シャークトパス」です。それから、生物兵器の名前ですが、その名前がまさに「シャークトパス」なのです。説明の段階では「S-11」と書いてきました。S-11とは、この生物兵器の正式な名称です。「シャークトパス」とは、民間人がつけた、いわば渾名、ニックネームのようなものです。

S-11は、おそらくブルーウォーター社で扱っている製造番号のようなもので、名前というよりは、おそらく記号でしょう。では、民間人が呼んだ「シャークトパス」とはどんな意味なのでしょう。それは、鮫を意味する「シャーク」と、蛸を意味する「オクトパス」を合わせた言葉です。シャーク+オクトパス=シャークトパス。

つまりS-11とは、鮫と蛸を合体させた身体構造を持った生物兵器なのです。ちなみに鮫が上半身で、下半身が蛸です。「シャークトパス」が大型のタイトルではなく、カルト映画の枠に収まってしまったのは、きっとその奇抜な発想ゆえなのではないかという気がします。

すじがきは、すでに書いたように王道を行っています。だから愛とかアクションとか、いくらでも怖く、もしくはロマンチックに描くことは可能です。実際にそういった場面も見られます。

最後に、ネイサンが、命をかけて娘のニコールをかばった場面には親子愛が見られますし、アンディとニコールが2人で応戦する姿には、男女間での愛、ロマンス、アクションなどが存分に描かれています。そのシーンは、まさに手に汗握るといってもいいほどでしょう。

ただ、いかんせん蛸です。しかも単なる大きな蛸の怪物ではなく、鮫と合体した蛸です。改造した鮫(シャーク)、もしくは改造した蛸(オクトパス)であれば、この場面ははらはらする場面でしょう。もちろん、鮫や蛸以外の怪物でも、そういった場面は見どころのひとつとなることでしょう。

充分に名作となりえたこの作品を、どうして鮫(シャーク)でもなく蛸(オクトパス)でもなく、鮫蛸(シャークトパス)としてしまったのでしょうか。そして「シャークトパス」という、あまりにも安直なネーミング。

もっと何とかならなかったのか――と思わずにいられません。内容は全体的にシリアスなのに、シャークトパスという存在と名前が、笑いを誘って仕方がありません。この絶妙なバランス感覚が、シャークトパスをカルト映画に偏らせた原因の大きな要素となっていることは間違いないでしょう。狙っていたのか、それとも蓋を開けてみたらそうだったのか、そのあたりのことは知りませんが・・・・・・。

カルト映画 シャークトパス

【パスワード】

あらすじの部分でも書いたのですが、ニコールは、父であり社長であるネイサンから「パンプキン」と呼ばれていました。それは愛情を込めての呼称だったのですが、どうして「パンプキン」が愛称なのでしょう。
これは、実はそれほど特別なことではないのだそうです。

日本でも、家族に娘がいる場合、親しみを込めて「姫」などと呼ぶ人がいます。または、女性が自分の恋人や配偶者を呼ぶ時に、これも親しみを込めて「相方」などと呼ぶことがあります。外国では「ハニー」「ダーリン」などと呼びます。「シュガー」と呼ぶ場合もあるそうです。ハニーは蜂蜜でシュガーは砂糖です。

どちらも「甘い物」なので、甘い関係である恋人に対する呼称として使われているのではないか、という説があるそうですが、はっきりとはわかりません。「パンプキン」もこれと同じで、娘に対する愛称として使われることが多いのだそうです。

パンプキンはかぼちゃですが、どうしてかぼちゃなのかと調べてみたら、かぼちゃも甘い食べ物だからなのだと、一説では言われているそうです。ところで、かぼちゃといっても種類があります。ふだん僕らが食べるかぼちゃは、実はパンプキンではありません。

【2種類のかぼちゃ】

今では日本でもだいぶ定着していますが、10月にはハロウィンというお祭があります。それで有名なのが、かのジャックオランタンです。ジャックという名の男が、生前に悪魔を騙して、死後に地獄へ行かずに済む契約をしたために、その契約通り、死んでから地獄へ行かずに済んだ一方で、かといって生前の行いが悪かったせいで天国行きも拒否されたために、居場所がなくなってこの世に漂っているという説があります。

また、あんまりにも堕落した人生を送ったために、地獄天国を問わず、死後の世界そのものへの立ち入りを禁じられてしまったためにこの世に留まらざるをえずにいる、とも言われています。

いずれにしても、ジャックは、かぼちゃで作られたランタンを持っています。問題はそのかぼちゃです。あれは、皮が赤色です。でも、僕らが食べるかぼちゃは緑色の皮です。一般にパンプキンという場合は、ジャックオランタンの持つ赤い皮のものを指します。では緑色の皮のかぼちゃはどうなのかというと、そっちは「スクウォッシュ」と訳されるそうです。

カルト映画 シャークトパス

【本当に滑稽なのか】

ところで、この「シャークトパス」なのですが、本当に滑稽なのでしょうか。鮫と蛸という組み合わせは、いかにも奇抜で、一見笑ってしまうような印象ですし、この記事のはじめにもそんなふうに書きましたが、もし、ふたつの生き物を組み合わせて生物兵器を作るのだとすれば、鮫と蛸はなかなかに相性が良いものとも思えます。

鮫は、言うまでもなく獰猛で、その歯で噛みつかれたら、人間の腕や足を噛みちぎりかねない力と構造ですし、下手を打てば、人間など簡単に殺されてしまうでしょう。

では、蛸はどうでしょう。日常では、相手を馬鹿にする意味で「タコ」と言ったり、イラストでは、頭(あれは実際には胴体)に鉢巻をつけた姿で描かれたりなどしていて、やや滑稽な印象がありますが、実際の蛸はかなり高性能な生物です。

【おそるべき蛸の生態】

蛸には心臓が3つあります。ほかの生物と同じように、メインとなる心臓はひとつです。しかし、魚の鰓に当たる部分にサブの心臓がふたつあります。

どうしてそんなに心臓がいっぱいあるかというと、蛸は全身が筋肉で出来ているからです。陸にあがればぐにゃぐにゃとしていかにも弱い存在ですが、海の中ではまるで違います。全身が筋肉なので、自由自在に形を変えたり、8本の脚を複雑に動かすことで、獲物を捕らえたり敵から逃げたりすることができます。

筋肉が多いということは、それだけエネルギーの消費量も多くなるということです。だから心臓がひとつでは足りないのだそうです。メインの心臓だけではなく、サブの心臓をふたつ持つことで、身体の隅々まで常に栄養を送ることが出来るのだそうです。

エネルギーの消費量が多い理由は、筋肉の量が多いことのみではありません。筋肉が多くても、当然ですが動かなければエネルギーは消費しません。動物は基本的に動かなれば生きていけないですから、多少は動きます。蛸の場合は、その動きが非常に高度です。

例えばですが、右手で三角形を描きながら、左手で丸を描く――これはなかなかできません。ふたつの指示を同時にこなすほど、人間の脳は器用ではないからです。ピアニストなどはこういったことができると聞きますが、そういった特別な訓練を積んでいない場合は、大抵の場合、できないでしょう。

ですが、もし蛸が、「三角形と円を同時に描け」という命令を理解したとするならば、おそらく簡単にできるのではないかと思われます。なぜなら、蛸には脳が9つもあるからです。

心臓と同じように、メインとなる脳は1つです。では残りの8つどこにあるのかというと(8という数字からもわかると思いますが)脚の1本1本にあるのだそうです。メインの脳を総司令官とすると、8つのサブの脳は、脚を1本ずつ担当する操縦士といったところでしょうか。

だから、あんなにも複雑な動きができるのだそうです。さらに、脳の数が多いのに加えて、総司令官たるメインの脳が、非常に優秀です。学習能力があるし、簡単な策を立てるくらいの機能はあるのだそうです。

カルト映画 シャークトパス

【シャークトパスの凶暴性】

獰猛な鮫と、狡猾な蛸の修正を併せ持ったシャークトパスは、実在すればかなりの脅威となります。ちなみに、鮫も蛸も海の生き物ですが、シャークトパスは淡水の中でも生息できる上に、陸上でも活動可能です。

さらにいうと、下半身部分に当たる蛸の脚ですが、普通の蛸のものとは違い、鋭利に尖っているため、槍のように対象を突き殺すこともできます。ほぼ死角がありません。

しかも人間側は、軍隊が用いるような兵器を使えないわけですから、手こずることは必至です。淡水や陸上での活動や、脚が尖っていることを除けば、海の中だけの話だとしても、相当に厄介な相手です。

脅威の生物が暴れまわるカルト映画シャークトパス」。それは決して笑いをとることが目的ではないといえます。真面目に、怖い映画なのです。とはいえ――。

【やっぱり蛸なんだと思う】

怖い映画ではあるのですが、やっぱり蛸なんです。SF映画を見るにあたって、蛸の生態について考えることはないと思います。「鮫と蛸ってどういう組み合わせだよ」といった、なかば呆れるような印象を持ちながら視聴するんではないでしょうか。そして苦笑いを噛み締めつつ映画を見ることになるんではないでしょうか。

真面目に考えるなら、シャークトパスはけっこう強い組み合わせで、それに脅かされながらも立ち向かう主人公の姿は、ヒーローとして映るはずです。

ですが、そんな前知識など関係ありません。知っていたとしても、まずはシャークトパスというネーミング、それから組み合わせの奇抜さなどが、一種、笑いを誘う原因になります。

そのどうしていいいのか分からない笑いがまんべんなく漂っているのが、シャークトパスです。その笑いが、シャークトパスの特徴です。そして、その特徴ゆえに、「真面目な」映画ファンからはまともに見られず、また、好んでみる映画ファンからも、素晴らしい映画というよりは奇抜な映画として評価されてしまうことになっているのではないでしょうか。

どんなに感動的なストーリーでも、どんなに躍動感のあるすじがきでも、シャークトパスという存在ひとつで、名作がカルト映画になってしまっている――という印象があります。

【考えなくてもいい】

映画が売れるか売れないかは、とても大事な問題です。観客が少なければ、収入が見込めず、赤字の憂き目にも遭ってしまいかねません。ですが、それはあくまで製作者サイドの問題です。言うまでもなく、観客としては、これからみる映画が自分の好みであれば、大ヒット映画であろうがカルト映画であろうが関係ありません。

ただ、シャークトパスの存在とか、その奇天烈な発想と容姿ゆえに、世界的な名作とは、今のところ言われていません。もしこの映画がお勧めとして紹介されたとしたら、それはおそらく、内容というよりは、どうしてそういう発想になったんだ、というような、紹介することで受けを狙うよな目的が主なのではないかと思われます。僕も、この映画はなんだか可笑しくてしょうがないです。決して侮蔑の意味ではなく・・・・・・。

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大学時代に現劇団の前身「スパースターノイローゼ」旗揚げ。 1989年劇団「営業二課」設立。 1997年松竹シナリオスクール卒業。 フェニックス掌編文学賞入賞。 2009年8月から2017年2月まで中央林間カルチャースタジオ演技講師に就任。 現在は映画脚本、舞台演出、脚本、ラジオドラマ制作、リーディング講師など精力的に活動中。 演技指導はマンツーマンを基本に行っている。 日本劇作家協会会員。 劇団営業二課主宰。 横須賀まなび館演技講師。

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