スラッシャー映画 ハロウィン!ご飯論法と被害者

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ナイトメア・シンジ

大学時代に現劇団の前身「スパースターノイローゼ」旗揚げ。 1989年劇団「営業二課」設立。 1997年松竹シナリオスクール卒業。 フェニックス掌編文学賞入賞。 2009年8月から2017年2月まで中央林間カルチャースタジオ演技講師に就任。 現在は映画脚本、舞台演出、脚本、ラジオドラマ制作、リーディング講師など精力的に活動中。 演技指導はマンツーマンを基本に行っている。 日本劇作家協会会員。 劇団営業二課主宰。 横須賀まなび館演技講師。

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スラッシャー映画 ハロウィン!ご飯論法と被害者

【かつて本当にあった話】

昭和47年というから、相当に昔の話です。その年、日本中で大騒ぎになった事件がありました。外務省秘密漏洩事件。内容は、そんまんんまです。西山太吉という名の記者が、日米の密約の情報を盗んでしまったのです。

この事件の論点は、西山記者の盗み出した情報が「秘密」に当たるか否か、また、報道の自由とは何か、といった点にあります。が、騒がれていたのは、もっと別の点です。西山記者と、彼に情報を与えた相手(女性)が、性的な関係にあったのではないか、という部分でした。

この事件を語る際によく言われるのが、西山太吉に対する中傷です。「だいたい太吉なんて、名前からして太ェ奴だッ」誰が言ったのかは知りませんが、怒っているのだが笑わそうとしているのだか分からない言葉です。

単なる駄洒落なのですが、あえて、この駄洒落を真剣に見てみたいと思います。どんな駄洒落なのかというと、「図々しい」という意味での「太い奴」と、直径が大きい様子を表す「太い」という言葉が、その意味を混同して使われているところが駄洒落になっています。

こんなことを真剣に書くのはなんだか恥ずかしいですが、これを今回はテーマに考えてみたいと思います。といっても、駄洒落について考えるというわけではなく、詭弁によって中傷を受けた場合の返し方について考えてみる――という意味です。ところで、最近「ご飯論法」なんていうのが流行っています。一応どんなものかを説明しておきます。

【ご飯論法とは】

たとえば「朝にご飯を食べましたか」という質問に対して、回答者が、「ご飯はべていません」と答えたとします。しかし実は、回答者は、朝にパンを食べていました。質問者としては、「食事」を意味する言葉として「ご飯」という言葉を使ったのですが、回答者は、「米」という意味にすり替えて「ご飯は食べていません」と答えたわけです。

つまり回答者は、嘘をつくことなく「朝食をとらなかった」と勘違いさせる回答をしたことになるのです。結果、「パンを食べた」「朝食を食べた」という事実を隠すことができるわけです。「ご飯論法」という言葉で有名になった回答ですが、堅苦しい言い方をすると「言葉の多義性による詭弁」などと呼ばれています。

この詭弁は分かりやすいものですが、あまり意識していないと、ふと騙されてしまったり、重大な事件にまで発展してしまいかねません。実際に「たぬきムジナ事件」と呼ばれる事件が起きて、裁判沙汰にまでなったほどです。

検索していただければすぐに出てきますので、興味のある方は、ぜひ調べてみてください。ご飯論法に限ったことではありませんが、生活の中には詭弁があふれています。それらから身を守るにはどうすれば良いのでしょうか。西山太吉は、「太い奴」という中傷にどう反撃すれば良かったのでしょうか。それを「ハロウィン」というスラッシャー映画から考えてみたいと思います。

次の見出しでは、スラッシャー映画と評価を受けている「ハロウィン」のストーリーを、ネタバレありで説明します。なので、内容を知りたくない方は飛ばしてください。

スラッシャー映画 ハロウィン!ご飯論法と被害者

【映画「ハロウィン」のストーリー紹介(ネタバレあり)】

かつて、姉を殺した弟がいました。その名は、マイケル。姉が性行為を終えたところを殺害したのです。どうして殺したのか、それはわかりません。当時のマイケルは6歳でした。幼子ではあるものの、人を殺したとあっては大問題です。それで、マイケルは精神病院に入れられました。

その15年後のことです。マイケルは21歳になっていました。ある日、マイケルは、サムという名の医師によって精神病院から裁判所へ移送させていました。その最中のことです。マイケルは一瞬の隙をついて、逃走してしまうのです。それが――悪夢の始まりでした。

ここで視点は変わります。女子学生のローリーが、下校中の道を歩いていると、なんだか視線を感じます。ちら、と様子を見ると、白い覆面を被った男の姿が一瞬だけ見えます。が、すぐに見失ってしまいます。
そして、来たる10月31日。つまり、ハロウィンの日です。

みんなが浮かれている中、ローリーと、友人のアニーはベビーシッターの仕事へ向かいます。ローリーは真面目に仕事をしていたのですが、アニーはそうでもありあませんでした。

アニーは仕事中だというのに、恋人から連絡が来たからといって、自分が面倒を見ている子供をローリーに押し付けて(仕事先がたまたま隣同士の家)、自分は恋人のもとへ向かおうとします。それで車へ乗り込もうとしたところ、隠れていた「ブギーマン」に殺されてしまいます。

ブギーマンとは、この映画の中で子供たちから信じられている怪物の名です。そして、過日にローリーが見た、白い覆面を被った男の正体も、このブギーマンです。さらに種を明かすと、そのブギーマンを演じているのは、かつて6歳のころに姉を殺したマイケルでした。

アニーを殺したブギーマンは、その死体を運びます。ローリーはそんなことには気づいていません。が、ローリーが面倒を見ている子供(トミー)は、ブギーマンの姿を目撃。びっくりして、「ブギーマンをみた!」
と騒ぎます。が、そこは子供の言うこと。ローリーも一応のところ様子を見ますが、すでにブギーマンの姿はありません。

アニーがベビーシッターをしていた家には、当然ですが、もう誰もいません。子供はローリーに預けられているし、アニーは殺されて死体も片付けられてしまっているからです。さらに、ベビーシッターを雇っていることからも分かるように、両親は外出中です。そんな事情を知っているカップルがいました。アニーの友人である、リンダとボブです。

2人は、アニーの仕事先に「大人」がいないことをいいことに、その家をホテル代わりとして使おうと考えたのでした。リンダとボブは、家の中にあがり、それぞれにシャワーを浴びたりしているのですが、まずはボブがブギーマンによって殺されてしまいます。さらにリンダもまた、その毒牙にかかってしまいます。

そのころ、ローリーはというと、なんとなく隣(アニーがベビーシッターをしているはずの家)の様子が妙だと感じます。それで様子を見に行くと、凄惨な殺され方をしたリンダとボブの死体を発見。

そこへ、ブギーマンが襲いかかってきます。ローリーはその襲撃をかわし、自分の本来の仕事先であるトミーの家へ戻ります。それで助けを呼ぼうと電話の受話器を手にするのですが、すでに電話線が切られており、つながりません。そこへ、またブギーマンが襲ってきます。

ローリーは編み鍵で応戦。ブギーマンの体を刺すのですが、びくともしません。これはもう駄目かと思った矢先、助っ人が現れます。その助っ人とは、マイケルを移送していた医師のサムと、警官でした。ふたりは、失踪したマイケルを追跡していたのです。

ブギーマンは警官の発砲を受けて、窓から外に転落。しかし、その遺体は行方不明になってしまったのでした。

【ローリーの危機管理】

ざっとあらすじを書いてみましたが、ブギーマンの被害に遭ったのは、アニーとリンダとボブ以外にもたくさんいます。ところで、主人公のローリーのことが気になります。とりあえず一命を取りとめはしましたが、かなり危険なところまで行っています。しかし、やり方によっては、そこまで危険な目に遭わずに済んだかもしれません。

では、どうすれば良かったのでしょう。と、その前に、この映画をスラッシャー映画という視点から考えてみたいと思います。

スラッシャー映画 ハロウィン!ご飯論法と被害者

【殺意のあらわれ】

作中では、どうしてマイケルが姉を殺したのか、さらに、脱走したあと、どうして人を殺し続けたのか、その理由については説明されていません。よくわからないけれども、人を殺す人間として描かれています。

とはいえ、スラッシャー映画とはいうものの、「スラッシャー映画」を期待して満足できるかというと、そうでもないと思われます。スラッシャー映画と呼ばれる他の映画と比べると、この「ハロウィン」は、そういった場面を殊更に濃くは描かれていないのではないかと思われます。

もちろん数値化できるものではないので比較はできないかもしれないですが、「スラッシャー映画」を強調するほどではないのではないでしょうか。なんとなく、全体的に静かな雰囲気です。随所随所で姿を見せるブギーマンは、見えたと思えばすぐに消えてしまいます。

その恐怖は、ジェットコースターのそれに近いかもしれません。ジェットコースターの恐怖といえば、あの速度です。ですが、最初からあの速度が出るわけではありません。はじめは、ゆっくりと、徐々に頂点へ昇っていきます。

その間の気持ちはどうでしょうか。高速で走り回っている時の恐怖はもちろんですが、徐々に昇っている時のじりじりした感じも、また違った意味で怖いのではないでしょうか。いや、怖いというよりは、尻がむずむずする感覚とでもいうべきでしょうか。いわば焦らされている状態です。

焦らされて焦らされて焦らされてから、ドッカーンと急降下すると、焦らされた分、恐怖と爽快感が倍増するわけです。おそらく、「ハロウィン」の恐怖も、そうしたものと同じ種類なのではないでしょうか。

人を刺す、血が散る、といった「スラッシャー映画」と呼ばれる要素は、なかなか出てきません。ブギーマンという姿で、ちらりちらりと見せられると、観客としてはその度に期待を募らせ、また裏切られます。そうすると、どんどんとストレスが溜まっていくわけです。

それが、ある瞬間に突然ブギーマンの登場とともに、刺しては血の飛ぶ場面をドッと見せられることになります。すると、恐怖と同時にストレスが解消される気分になります。

スラッシャー映画だからといって、無闇に血を飛び散らせば観客が満足するかといえば、そうではないのだと思います。どうせ同じ場面を使うなら、できるだけ焦らせてから、ドンと出す方が、満足感をもたらすことができます。

つまり、日常生活を淡々と描きながら、そこへ「スラッシャー映画」の要素(「ハロウィン」で言えば、ブギーマンの姿が、たびたびあらわれる場面)を混ぜて延々と流しておいた方が、スラッシャー映画としての効果は増加するということです。

地の色が濃ければ濃いほど、絵も引き立つのです。そういう意味でいうと、「ハロウィン」はスラッシャー映画として、すごく緻密に計算されていると言えるかもしれません。さらに、ブギーマンの心情も、いくらか窺えると思います。

すでに書いたように、ブギーマンことマイケルが、殺人を犯す理由については、語られていません。ですが、その殺意はかなり強いのではないかと思われます。「ハロウィン」のポスターを見てみると、ブギーマンが刃物を持っている姿が描かれています。

問題は、その刃物の持ち方です。普通、人と戦うのに刃物を使う場合は、刃物を順手に持ちます。その方が刺しやすいからです。ですが、ポスターのブギーマンは、刃物を逆手に持っています。逆手で刃物を持つということは、(順手に比べれば)人を刺すことは難しくなってきます。が、悪いことばかりではありません。逆手に持って刺す場合、刺した時に、思う存分に力を込めることができます。

順手(刺しやすさ)よりも逆手(力の込めやすさ)を選んでいるということは、おそらく、ブギーマンの、殺人への思いは相当に強いものなのではないかと思われます。

そしてスラッシャー映画の場合、もし人間による、刺す、斬るといった行為によって血しぶきが飛ぶならば、刺す力が強ければ強いほど、また、その殺意が強ければ強いほど、観客へ与えるインパクトも強いものになるのではないでしょうか。

【ローリーの取りえた行動】

「ハロウィン」というタイトルどおり、映画の舞台もまたハロウィンです。さきほど、ローリーはもしかしたら、危険な目に遭わずに済んだかもしれない――というところで話を止めてありました。

その続きを、再開したいと思います。ローリーは、どう行動するべきだったのでしょう。いや、どうして、とるべき行動が取れなかったのでしょう。それは、おそらく、この映画の舞台となっている日が、まさしくハロウィン当日だったから、と言えるかもしれません。

ハロウィンは、言うまでもなく、オバケが出る日です。もちろん、その由来などを調べると、もっと深い意味があるのですが、とりあえずは、そんな日とされています。それにあやかって、子供がオバケの恰好をして近所を訪問し、お菓子をねだります。

そして、映画「ハロウィン」の中では、「ブギーマン」と呼ばれるオバケの噂があります。問題はそこです。「ハロウィン」の日に「子供」が「ブギーマンをみた」と叫んだこと。

ここでいう子供とは、ローリーがベビーシッターとして面倒をしてるトミーのことです。そして、そのトミーのいう「ブギーマン」とは、「マイケルが扮した〝白い覆面の男〟」のことです。おそらく、ここで勘違いと侮蔑が発生したのだと思われます。

ハロウィンの日に、年端も行かない子供がオバケの話をしている――とローリーは思ったのかもしれません。だから「ブギーマンをみた!」というトミーの叫びも、そんなに重要なこととは思わずに、その瞬間はやり過ごしてしまったのでしょう。

もし、ここでもっと真剣に、トミーに対してどんなものを見たのかを聞いておけば、通報するなり逃げるなりして、マイケルの魔手からは逃れられていたのかもしれません。

言ってみれば、ハロウィンの日でなくては、この映画は成立しえないのです。ハロウィンの日に、子供がハロウィンっぽいことを言っただけだと勘違いしてしまったために、ローリーはその重要性を感じられず、結果、対応もおろそかになってしまい、ローリーは危険な目に遭ってしまうわけです。その勘違いによって、映画としてのハロウィンは、スプラッター映画として成立することになるのではないでしょうか。

ローリーとしては、もっとちゃんとトミーの言葉に耳を傾けておくべきでした。では、トミーはどうすれば良かったのでしょうか。トミーはベビーシッターを必要とするくらいに幼いので、そんな幼い子供に対応を求めるのは酷でしょう。

ですが、子供ではなくても、たとえば部外者だとか、素人だとかいう理由で、本当のことを言っても信じてもらえないことがあります。そんな場合にどう対応すれば良いのかを、トミーの立場を参考にして考えてみます。

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【言葉を置き変える】

もう1度、ローリーの心境を振り返ってみます。その時の状況を、ローリーの視点から説明すると以下のようになるでしょう。

「ハロウィンの日に、子供が、ブギーマンをみたと叫んでいる」同じ状況を、今度はトミーの視点から説明してみます。

「自分という目撃者が、ブギーマンを見たと報告している」

トミーは、「幼い子供」でもあるし「目撃者」でもあります。この2つの言葉は、この状況においてはどちらも「トミー」を指します。

では、「ブギーマン」という言葉はどうでしょう。これは、ローリーとトミーで、言葉としては一致しています。しかし、意味が異なっているのです。

ローリーは、「ブギーマン」という言葉を、噂に立っている「オバケ」との意味で捉えていることでしょう。しかしトミーは違います。

トミーとしては、「ブギーマン」という言葉を、「死体を運んでいる覆面の男」との意味で使っています。これを踏まえて、もう一度、この状況を2通りの表現で説明してみます。すると、こうなります。

1・「幼い子供が、噂のオバケの話をしている」
2・「目撃者が、死体を運ぶ覆面の男を見たと報告している」

説明している状況は同じですが、表現によってまったく意味が変わってきます。「1」は、なんとなく微笑ましくさえありますが、「2」は穏やかに笑っている場合ではありません。
言葉の選び方次第で、その印象はまるで変わってしまいます。意図的にせよ、そうでないにせよ・・・・・・。
もし、自分が信用されないと思った場合は、相手がどんな言葉で自分を表現しているのかを考えてみて、違う言葉で言い換えてみる必要があります。言葉を置き換えることができれば、あるいは自分の言うことを理解してもらえるかもしれません。

ここで、はじめの問題に立ち返ってみたいと思います。
それは、外務省秘密漏洩事件において、西山太吉記者が受けた中傷です。彼は、どう切り返せばよかったのでしょうか。

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【真剣に考えるのも馬鹿のような話】

はじめにも書いたように、西山太吉記者は、このように言われました。「太吉なんて、名前からして太ェ奴だ」太吉という名前の「太い」と、図々しいという意味での「太い」は、言葉が同じなだけで意味は違います。

まあ、それを指摘すれば済む話なのですが、こんな場合は真剣にそんなことを言ってもからかわれるだけです。だから西山太吉記者としては、同じように駄洒落を使って、「そんなに腹を立てるなら、きっとお前(中傷を言った人)の〝ソレ〟はさぞかし細いんだろうな」とでも言っておけば、座布団の1枚くらいは貰えるのではないでしょうか。いずれにしても、こんなことはいくら考えても、なんのためにもなりません。

【そしてご飯論法】

言葉の意味と発音。その差異と共通点を混同してしまうご飯論法。くだらないにもほどがありますが、実際、言葉の選び方や修飾語なんかによって、印象を操作すること、されることはあります。意識せずにやってしまうこともあるでしょう。

もし、そこで腑に落ちないことがあったとしたら、特にそれが自分へ向けた攻撃であったとするならば、それが事実であろうとなかろうと、その攻撃に使われている言葉を、別の言葉で置き換えてみることが必要でしょう。

そして、それをなんらかの手段で発信することができれば、とりあえずの面体は保てるものと思います。また、「太吉なんて~」のような駄洒落みたいな批判だとしたら、その意味をすり替えて反撃するのが「粋」かもしれません。

ネットの普及は、それ以前に比べて、接する言葉の量を圧倒的に増やしました。その言葉の海の中で、溺れないようにしたいものです。

ABOUTこの記事をかいた人

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大学時代に現劇団の前身「スパースターノイローゼ」旗揚げ。 1989年劇団「営業二課」設立。 1997年松竹シナリオスクール卒業。 フェニックス掌編文学賞入賞。 2009年8月から2017年2月まで中央林間カルチャースタジオ演技講師に就任。 現在は映画脚本、舞台演出、脚本、ラジオドラマ制作、リーディング講師など精力的に活動中。 演技指導はマンツーマンを基本に行っている。 日本劇作家協会会員。 劇団営業二課主宰。 横須賀まなび館演技講師。

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