スプラッター映画 ホステルの魅力をもう一度

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ナイトメア・シンジ

大学時代に現劇団の前身「スパースターノイローゼ」旗揚げ。 1989年劇団「営業二課」設立。 1997年松竹シナリオスクール卒業。 フェニックス掌編文学賞入賞。 2009年8月から2017年2月まで中央林間カルチャースタジオ演技講師に就任。 現在は映画脚本、舞台演出、脚本、ラジオドラマ制作、リーディング講師など精力的に活動中。 演技指導はマンツーマンを基本に行っている。 日本劇作家協会会員。 劇団営業二課主宰。 横須賀まなび館演技講師。

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スプラッター映画 ホステルの魅力をもう一度

【旅の楽しみはなんでしょう】

不安の元には「悪い結末が予想される場合」と「なんだかよく分からない場合」の2つがあります。もちろん、別の理由もあろうかと思いますが、おおかたこの2つではないでしょうか。

ただ、一方でそれらが「楽しみ」になる場合もあります。どんな場合かといえば、「ただし安全は保証される」という一点だけが分かっている場合です。ジェットコースターが「怖い乗り物」である反面、相変わらず人気を得ているのはこのおかげではないかと思われます。

ジェットコースターは急激に加速したり降下したりすることが分かっている反面、たとえどんなに加速、降下しても、「安全に設計されているから怪我はしない」ということは分かっています。いわば擬似的な危険の体験と言えます。だから恐怖を感じつつも楽しめるのではないでしょうか。

では旅の楽しみはなんでしょう。珍味名産を喰うとか、絶景に刮目するとか、異文化に仰天するとか、それはいろいろと考えられることではあると思うのですが、人との交流を楽しみにする人も多いと聞きます。

異国異文化を楽しめる理由は、その違いが未知だからである場合もあろうかと思います。が、それを楽しめるのは、未知ではあるけれども「危険な目には遭わない」という前提が保証されているからなのではと思います。もしくは危険な目に遭わない方法を知っているとか、危険を察知する力がないということも考えられますが・・・・・・。

もちろん、そもそも未知ではなく、知っていて、なお深く知ることが楽しみだという場合もありましょう。いずれにせよ、旅へ出れば、少なからず新しい出会いがあります。それが楽しみという人は多いのではないでしょうか。

その出会いが楽しみなものだから、ある人は、ホテルよりもホステルを好んで使うと言っています。ですが、ホステルでの出会いが必ずしも楽しいものではありません。現実の話をしますと、油断していると、すぐに置き引きに遭うそうです。しかし、それはまだ些細なことです。命には関わりませんから・・・・・・。

【ホステルってなに】

楽しみの1つであるホステスですが、そこを恐怖の入口として描いた映画があります。タイトルは、ずばり「ホステル」です。ジャンルはホラーと言われることもあれば、スプラッター映画だと言われることもあるようです。それは、見る人がどこに重点を置くかで変わってくることでしょう。

ですが、そもそもホステルとはなんでしょう。宿泊施設ではありますが、ではホテルとどう違うのでしょうか。その違いは、実に簡単です。

ホテルは、部屋単位で提供するもの。ホステルは、ベッド単位で提供するもの。ホテルは部屋ごとに貸すので、風呂もトイレも独占できます。また、髭剃りや石鹸などといったものも無料で提供しています。その分料金は高くなります。

ホステルは、ベッド単位でしか提供されないので、トイレや風呂は共同。髭剃りや石鹸は、提供するなら有料です。ただし、その分、ホテルに比べれば料金は安上がりです。

便利さやプライベートを重んじるならホテルを選んだ方が良いのでしょうが、とりあえず安く寝床を確保したいならホステルでしょう。どちらが勝っているということはありません。そしてホステルの場合、その性質から、相部屋になります。そこで、交流が生まれます。ホステルの魅力のひとつはそこでしょう。もしかしたら恋が芽生えるかもしれません。

ところが、スプラッター映画と評されるところの「ホステル」は、その出会いこそが恐怖というか苦痛の入口になっているのです。どんな内容かを、次の見出しで説明いたします。

スプラッター映画 ホステルの魅力をもう一度

【甘美な罠】

主人公はバクストンという名の青年です。バクストンは、友人と、たまたま知り合ったもう1人との3人で、バックパッカーとして旅をしています。旅の目的は、ありていに言うなら肉欲です。

そんな3人は、ある人物から「最高の場所」を紹介されます。それはスロバキアにあるホステルでした。先にも話したように、ホステルを利用するなら、相部屋になることが前提です。よほど空いていれば別ですが・・・・・・。案の定、バクストンたちも相部屋になります。しかも、相手はとびっきりの美女です。

もともと、それが目的での旅でしたから、その時点で、目的は果たされたようなものです。そのホステルを紹介した人物の言う通り、3人にとって、そこは「最高の場所」だったのです。ところが、3人の仲間が徐々に減っていきます。しかも不自然な形で・・・・・・。

バクストンはそれを訝りますが、いっこう真相が見えてきません。いちおう、「誰それはチェックアウトした」などと理由を教えられるのですが、何か不自然なのです。その不自然な状況から、バクストンは少しずつ真相に迫っていきます。そして最終的に、バクストンは最悪の真相を知ることになります。

その真相とは、いなくなった仲間が、みんな(見世物としての)拷問の被害者になっている――ということでした。そして、それを知ってしまったバクストンもまた、凄惨な拷問を受けることになります。しかしバクストンは、そこから脱出します。拷問をしている相手の失態や、とっさの知恵などを総動員して最終的には助かるのです。

以上がスプラッター映画としてのホステルの内容です。この映画の寸評は、かなり極端に意見が分かれているようです。はじめにも書いた通り、作品は、接する側の人間がどこに重点を置いて感じるかによって、その価値がピンからキリにまで変化します。

スプラッター映画と分類される(こともある)ホステルには、おそらく、重点の置きどころがたくさんあるのではないでしょうか。それを、少し考えてみたいと思います。

【スプラッターと物語は両立しえないのか】

物語といってもたくさんの種類があります。終わり方で分類するなら、ハッピーエンドとバッドエンドに分けることもできます。もちろん、それ以外の分け方はたくさんあります。

ホステルはどうかといえば、主人公のバクストンは「助かっている」ので、ハッピーエンドと言えることでしょう。それはそれで良いのかもしれませんが、問題は、この映画を「スプラッター映画」と分類した場合に起きるようです。

最高の場所として紹介されたホステルが、実は(見世物としての)拷問の被害者を呼び寄せるための罠でした。もちろん、そこで夜をともに過ごす美女たちも、罠を張る側の人間です。拷問というくらいですから、当然ながら凄惨な場面が登場します。その場面があるからこそスプラッター映画に分類されうるのでしょうが・・・・・・。

ただ、そのスプラッター映画として肝心となる拷問の場面は、後半からになります。前半は、拷問の被害者になるまでの経緯が描かれています。誰がどうやって映画を分類するのかはわかりません。観た人が見た時点で、これはこういう映画ですと紹介する場合もあるでしょうし、製作者が、こういう分類の映画として作りましたと宣言することもあるにはあるかもしれません。

その辺はよくわかりませんが、もし、スプラッター映画の好きな人が、これはスプラッター映画ですよと紹介されて、このホステルを見たとしたら、きっと不満が残るのではないかと思われます。というのはなぜかといえば、それには最低でも2つの理由が考えられます。

ひとつは、拷問シーンが見られるまでにえらく時間がかかるというところです。前半のほとんどは、旅の理由と罠にはまるまでの経緯を描くのでいっぱいになってしまっています。性行為の描写はありますが、それではスプラッター映画のファンを満たすことはできないでしょう。

そしてもうひとつの理由は、主人公のバクストンが、最終的に助かるというところです。スプラッター映画と呼ばれるような、残虐な描写に重きをおいている映画は、たいてい主人公は助かりません。徹底的な絶望と理不尽の中で、もがき苦しみながら、死んでいきます。

中には、助かるかもしれないと思わせる場面を入れつつ、その最後の希望を断つかのような筋書きでさらに絶望感を煽るものさえあるくらいです。

スプラッター映画の魅力のひとつは、そのどうしようもない結末、まるで救いのない展開から得る不快感にあるのではないでしょうか。「魅力」が「不快感」とはいかにも矛盾していますが、きっとそれは「キモかわいい」などといった矛盾する感覚に近いものがあるのかもしれません。

しかし、この「ホステル」に関してはそれがありません。主人公が助かってしまうからです。いったんは絶望と苦痛のどん底に突き落とされるものの、助かってしまいます。絶望と理不尽さを求める人にとっては、その点で不満が残る作りとなっているのではないでしょうか。ですが、物語として見ると、あながち不満とも言えないのではないかと思われます。

スプラッター映画 ホステルの魅力をもう一度

【物語としてのホステル】

スプラッター映画としてではなく、スプラッター映画という側面を持った物語として、この「ホステル」を見ると、また違った感想が湧いてきます。主人公は、旅の途中で罠に嵌り、そこから脱出して物語が終わります。

この脱出という言葉が鍵です。大塚英志という人は物語を構成する上で「脱出の試み」をひとつの大事な要素として挙げていますし、今ではジャンルとして「脱出ゲーム」と呼ばれるものが確立しているくらいです。そういう意味からいうと、「物語」としては見応えがあると言えるのかもしれません。

また、物語には「カタルシス」という要素も大事になってきます。カタルシスとは、精神の浄化作用のことをいいます。「ホステル」においては、主人公は騙されて拷問にかけられます。これによって、恨み、怒り、恐怖などの感情を連想させます。

しかし後半、脱出する過程で、主人公は自分を騙した相手を殺します。つまり復讐に成功するわけです。
騙されたことで抱いた恨み、怒り、恐怖などの鬱積した感情を発散することができるのです。そう見ると、「物語」としてはよく出来ているのではないかと見ることもできるのではないでしょうか。

【評価の分かれ目】

まとめると、「ホステル」は評価の別れ方は大きく2つ整理できるのではないかと、思います。

・スプラッター映画を期待してみた場合は評価が低くなり、
・物語として見るなら、評価されうる

といった具合です。ただ、思い出してみてください。この映画のタイトルは「ホステル」なのです。

【ホステルに戻る】

ホステルは、旅先の拠点となりうる場所です。そしてホステルの魅力のひとつは、そこでいろんな人と触れ合えることです。そこから目的地へ行っていろんなものを見聞きしたり味わったりしに行きます。

仮に、そこで嫌な思いをしたり期待はずれだったりすることも、もしかしたらあるかもしれません。「ホステル」でいうなら、結末で主人公が助かってしまう部分がそれにあたるでしょう。

が、拠点であるホステルに戻ってくれば、そこで知り合った人、あるいはこれから知り合う人との楽しみに立ち戻ることができます。

スプラッター映画としての「ホステル」でも同じことが言えるのではないでしょうか。(スプラッター映画を期待して見た場合は)結末をみたら不満が残るかもしれませんが、それでも、きちんと(?)残虐な場面は登場します。その凄惨さは「初心者は気をつけた方がいい」と評されるほどです。なので、スプラッター映画を期待して見たとしても、〝その場面を見ている時〟は愉めているのではないでしょうか。

仮に結末をみて不満だったとしても、まるで旅先でホステルに戻るかのように、拷問シーンを思い出してみれば、その不満も、いくらかは軽くなるのではないかな、という気がします。

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大学時代に現劇団の前身「スパースターノイローゼ」旗揚げ。 1989年劇団「営業二課」設立。 1997年松竹シナリオスクール卒業。 フェニックス掌編文学賞入賞。 2009年8月から2017年2月まで中央林間カルチャースタジオ演技講師に就任。 現在は映画脚本、舞台演出、脚本、ラジオドラマ制作、リーディング講師など精力的に活動中。 演技指導はマンツーマンを基本に行っている。 日本劇作家協会会員。 劇団営業二課主宰。 横須賀まなび館演技講師。

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