トランピズムとカルト映画!アメリカ ピンク・フラミンゴ

The following two tabs change content below.
アバター

ナイトメア・シンジ

大学時代に現劇団の前身「スパースターノイローゼ」旗揚げ。 1989年劇団「営業二課」設立。 1997年松竹シナリオスクール卒業。 フェニックス掌編文学賞入賞。 2009年8月から2017年2月まで中央林間カルチャースタジオ演技講師に就任。 現在は映画脚本、舞台演出、脚本、ラジオドラマ制作、リーディング講師など精力的に活動中。 演技指導はマンツーマンを基本に行っている。 日本劇作家協会会員。 劇団営業二課主宰。 横須賀まなび館演技講師。

【ナイトメアファミリー誕生秘話はこちらから】

トランピズムとカルト映画!アメリカ ピンク・フラミンゴ

【多民族から嫌われる映画】

アメリカといえば多民族国家――というイメージがあります。人種のるつぼなどと呼ばれることもあるくらいで、きっと、そのイメージは間違いないのでしょう。その多民族国家であるアメリカで、ほとんどの人から「下劣」「変態」などと評価を受けている映画があります。

その映画のタイトルは「ピンク・フラミンゴ」。知る人ぞ知るカルト映画です。多民族国家であり、多様な価値観のあるアメリカでなら、この映画に限らず、もっと別な評価があっても良さそうなものですが、どうしてこの、「ピンク・フラミンゴ」というタイトルのカルト映画は、こうも蔑むような評価が多いのでしょうか。

もし自分が当たり前と思っている価値観や好みが、異質だとか異常だとか、あからさまに毛嫌いされたらどうすればいいのでしょうか。それは、ありえないことではないと思います。

【変態とは何か】

まずは「ピンク・フラミンゴ」の内容を紹介したいと思います。主人公は、ディヴァインという名の女性です。ディヴァインは、「世界一お下劣な女性」という称号をもっています。

が、そんなディヴァインに嫉妬を抱く人物がいます。それは、コニー・マーブルとレイモンド・マーブルという名の夫婦です。マーブル夫妻は、自分たちこそ世界一のお下劣だと自負していたので、ディヴァインはライバルであると同時に敵でした。

そこでマーブル夫妻は、ディヴァインに嫌がらせをしようと考えます。どんな嫌がらせかといえば、人糞を送り付けるというものでした。ディバインの誕生日パーディーに、匿名で人糞を送付したのです。それに怒ったディヴァインは、復讐としてマーブル夫妻の家に忍び込みます。そして、家の中をことごとく舐めつくします。

が、その間に、マーブル夫妻はもっとひどいことをディヴァインに対して行います。夫妻は、ディヴァインの家に焼き討ちをかけてしまうのです。マーブル夫妻の焼き討ちに怒り心頭に発したディヴァインは、2人の帰宅を狙って、仲間とともに待ち伏せ、拘束します。そしてマスコミを呼び、夫妻を「公開処刑」として、射殺します。

こうして、ディヴァインの持つ「世界一お下劣な女性」という称号は守られ、再び平和でお下劣な日常を取り戻すことができるのです。

最後に、ディヴァインは引越しをします。家が焼かれてしまったから仕方がなかったのでしょう。しかし、引っ越し先でも、ディヴァインは「世界一のお下劣」を誇示するかのように犬の糞を喰います。内容としては以上です。ところで、この映画のどこが変態、もしくは異常、あるいは下品なのでしょうか。

トランピズムとカルト映画!アメリカ ピンク・フラミンゴ

【海賊王に俺はなる!】

ワンピースという漫画と、そこから派生したアニメ作品が大ヒットを記録しました。内容はというと、主人公のルフィが、「将来は立派な海賊となる」ことを目指して仲間とともに冒険を繰り広げる――というものです。

各話ごとに感動だったり、ギャグだったりとさまざまな要素が、かなり緻密に計算された形で詰め込まれています。作品の中の、どの部分で使われたのかは分かりませんが、「海賊王に俺はなる!」というルフィの決意はあまりにも有名です。そして、実際にそれを目指す姿や仲間との友情は、多くの人を魅了しています。

カルト映画と称される「ピンク・フラミンゴ」と違い、「ワンピース」は下劣だとか異常だとかいう評価はあまり耳にしません。そうした評価も少しはあるのかもしれませんが、僕は今のところ見たことがありません。

ピンク・フラミンゴは、確かに、常識や法律に照らしたら、許されないであろう要素がたくさん詰め込まれています。人身売買、強姦、獣姦、乱交、殺人などなど、挙げればキリがありません。

ある人のレビューによれば、「この映画にストーリーはない。登場人物が見せる〝汚さ〟がメイン」なのだそうです。ですが、僕はそうは思いません。そうした場面がメインに来ていることは否めませんが、ストーリーはあります。

それも「復讐」という形のストーリーで、これは多くの物語を産んでいる「型」でもあります。蘇我兄弟も大石内蔵助も、お菊さんもモンテ・クリスト伯も、どれも主人公が復讐を遂げる過程が物語として描かれています。ピンク・フラミンゴもそうです。

主人公は世界一お下劣な女性です。もちろん人身売買などをやっているため、復讐される側でもあるのですが、「人糞」の件と「焼き討ち」の件に関して言うなら、復讐する側の人間です。

そして、マーブル夫妻を「公開処刑」という形で射殺することで復讐を果たし、また、日常を取り戻します。

ちなみに、この「日常を取り戻す」という部分も、物語の類型としては有名どころです。ウラジミールプロップという研究者も、「喪失と回復」という言葉で、これを説明しています。失ったものを取り戻す、という展開は、物語として基本中の基本とさえ言える「型」なのです。

なので、ピンク・フラミンゴは、決してストーリーがない映画などではありません。ただ、下劣な場面が目立ちすぎるあまり、ストーリーが隠れてしまっているだけです。それを踏まえて、あらためてワンピースと比較するとどうでしょう。

ルフィの夢は「海賊王」です。それに対してディヴァントの場合は「世界一のお下劣」です。どちらも「そのジャンルでの1番」を目指していることに変わりはありません。もっとも、ディヴァントの場合はそれが「これから叶える夢」ではなく、「すでに叶っている夢」なのですが・・・・・・。

ある目的のために主人公が努力する、戦う、敵を倒す、といった具合にそれぞれの行為を抽象化すると、ワンピースもピンク・フラミンゴも同じです。ほかの、いろんな物語も同じです。

では、なぜワンピースは大衆から人気を集め、ピンク・フラミンゴはカルト映画なのでしょうか。それはやっぱり、抽象化されていない行為(人身売買や食糞など)ゆえなのだと思います。

ですが、主人公と、主人公に嫉妬するマーブル夫妻と、この映画のファンにとっては、おそらくはそのタブー的な行為こそが、憧れや尊敬の対象なのでしょう。

それらに好意的な感情を持つ人は、きっと少数派なのだとは思います。そうでなければ世界じゅうがおかしくなってしまいます。ですが、価値観としてはどうなのでしょう。

【多民族国家アメリカ】

ピンク・フラミンゴ」が制作されたのは、アメリカです。はじめにも書いたように、アメリカといえば多民族国家です。もちろん価値観も多様です。が、勘違いしてはいけません。

アメリカは「多民族国家」「価値観が多様である」国家ではありますが、決して「多様性が認め合える国家」ではありません。

よくアメリカは「訴訟社会」などと表現されることがありますが、その原因のひとつが、「価値観の多様性」なのだそうです。あんまりにも多様な価値観があるせいで、共通した価値観が法律ぐらいしかないのだといいます。認め合えればそれに越したことはないのですが、そんな手間暇をかけていたら生活する余裕がなくなります。訴訟がもっとも手っ取り早いから「訴訟社会」なのだそうです。

トランピズムとカルト映画!アメリカ ピンク・フラミンゴ

【トランピズム】

つまりアメリカは多民族国家でありながら、同時に「他者の価値観」に対して不寛容な社会だと言える部分もあるのではないでしょうか。近ごろは、「トランピズム」なんて言葉をよく聞きます。

トランプ大統領の過激な言動を指す言葉です。具体的には、「多様な価値観への不寛容さ」を指すのだそうです。汚いものを汚いと言うことは誰にでもできることです。それは、一般論や常識などに従っていればできることで、しかし同時に思考が停止している状態とも言えます。

思考が停止したまま、無批判にそれを受け入れ、それに従っていると、ともすれば、その規範に当てはまらないというだけで差別や侮蔑といった見方しかできなくなる恐れがあります。

アメリカは、「訴訟社会」という言葉で象徴されるほどに、異なった価値観に対して不寛容です。トランピズムは、おそらくその不寛容さに拍車をかけることでしょう。その先にある未来に、僕は明るい未来をみることができません。

【あえて逆の評価を与えてみる】

ピンク・フラミンゴは少数の人から熱烈な支持を受ける映画――つまりカルト映画です。その少人数の人にしか分からない価値を理解することが、不寛容さを打破する1歩なのではないでしょうか。

そのためには、大多数の意見に反対してみることが、ひとつのキッカケとなります。ピンク・フラミンゴをはじめとしたカルト映画を、あえて「美しい」「素晴らしい」などといった結論を先に掲げておいて、もしそうなのだとしたらどういう理由があるのだろうかと考えてみます。

そうすることが、自分の価値観を広くすること、ひいては不寛容さを緩和させることに繋がるのではないでしょうか。ややハードルが高いかも知れませんが、カルト映画の中でもかなりの異彩を放つ、このピンク・フラミンゴを、あえて賞賛してみてはどうでしょう。

ABOUTこの記事をかいた人

アバター

大学時代に現劇団の前身「スパースターノイローゼ」旗揚げ。 1989年劇団「営業二課」設立。 1997年松竹シナリオスクール卒業。 フェニックス掌編文学賞入賞。 2009年8月から2017年2月まで中央林間カルチャースタジオ演技講師に就任。 現在は映画脚本、舞台演出、脚本、ラジオドラマ制作、リーディング講師など精力的に活動中。 演技指導はマンツーマンを基本に行っている。 日本劇作家協会会員。 劇団営業二課主宰。 横須賀まなび館演技講師。

【ナイトメアファミリー誕生秘話はこちらから】