演技へのアプローチと映画『八日目の蝉』の永作博美について話そう

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ナイトメア・シンジ

大学時代に現劇団の前身「スパースターノイローゼ」旗揚げ。 1989年劇団「営業二課」設立。 1997年松竹シナリオスクール卒業。 フェニックス掌編文学賞入賞。 2009年8月から2017年2月まで中央林間カルチャースタジオ演技講師に就任。 現在は映画脚本、舞台演出、脚本、ラジオドラマ制作、リーディング講師など精力的に活動中。 演技指導はマンツーマンを基本に行っている。 日本劇作家協会会員。 劇団営業二課主宰。 横須賀まなび館演技講師。

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今日は演技者の”演技へのアプローチ”についてお話します。
(演技へのアプローチに悩む役者は少なくない)

演技へのアプローチはどうすれば、良いか?

演出家・脚本家・映画評論家・演技講師・リーディング講師・ナイトメアプロダクションCEO の6つの顔を持つナイトメアシンジ
演出家として、筆者がリスペクトする鴻上尚史は著書「演技と演出のレッスン」(白水社)の中で、”演技へのアプローチについて”こう説明しています。

”翻訳物のミュージカルとかを見に行くと、「やあ、いらっしゃい、ニック。スーザン、ニックだよ。ハーイ、ベン!」と外人風な動きと発音で、自分自身とまったく切り離して演じることが演技だと思っている人がいます。

演技は他人になることではありません。演技は自分の人生のありえた可能性を追求することです。あなたが、何かしらの奇跡で1960年代のニューヨークに生きていたとしたらどうするか?そういう視点で役にアプローチすることが大切なのです”

鴻上尚史は”与えられた情況”をよく知るために、4つのWを深く知ることが大事だと言っています。

それは、

誰が?(WHO?)
いつ?(WHEN?)
どこで?(WHERE?)
何を(WHAT?)

演技とは”その役を演じるのではなく”、”その役になり切ること”なのです。

”その人物になり切る”

そのためには、その人物の”バック・グラウンド”を考えることも演技のアプローチのひとつだと多くの演出家が述べています。
(しごく、最も)

どこで生まれて、どこで育ち、どんな性格なのか?

シナリオが説明していない空白を埋める。

ナイトメアシンジ
簡単な作業ではない。台本をちゃちゃっと読んで、ソツなくこなす俳優もいますが、心を動かす演技は出来ない。嘘の演技に観客は騙されないから
これが演技へのアプローチの真髄です。但し、注意点は台本の設定に矛盾しないこと。(これ重要) 

うまく、登場人物の”バックグラウンド”が出来上がると、ただの紙の上の文字が”生きた人間になります。

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永作博美の映画「八日目の蝉」の”ラストの迫真の演技”はバックグラウンドが埋まっていないと出来ない芝居かもしれません。

映画「八日目の蝉」とは?

映画「八日目の蟬」は2011年に角田光代の小説を映画化した作品。
監督は成島出。脚本は奥寺佐渡子。

第35回日本アカデミー賞では、最優秀監督賞、最優秀作品賞、最優秀主演女優賞(井上真央)、最優秀助演女優賞(永作博美)など10冠を獲得。
上映時間147分の大作。

映画「八日目の蝉」の簡単なあらすじ

野々宮希和子(永作博美)は秋山丈博(田中哲司)の愛人だった。

丈博の子供を堕胎したことがきっかけで子供を産めない身体になってしまった希和子は秋山邸に侵入、自分に笑いかけた赤ん坊(恵里菜)が愛しくなり、衝動的に誘拐してしまう。希和子は赤ん坊に『薫』と名づけ、ともに逃亡を図る。

希和子は4年にわたる長き逃亡の果てに逮捕、赤ん坊は無事保護される。

演出家・脚本家・映画評論家・演技講師・リーディング講師・ナイトメアプロダクションCEO の6つの顔を持つナイトメアシンジ
映画では、21才になった赤ん坊を井上真央が演じている。自分も不倫していて、お腹に赤ちゃんがいる。薫は女性フリーライター安藤:小池栄子と希和子との記憶を辿る旅に出る
”通常、蝉は地上に出てきてから七日しか生きられない”ということがこの「八日目の蝉」のモチーフ。 

では、永作博美の名演技シーンを振り返りましょう

ここにタイトル

小豆島。
フェリー乗り場近く。
総菜屋から小走りに出て来る希和子と薫。(不安。急いでいる)
フェリー乗り場に立つ女性私服警官らしき人物を見て棒立ちになる希和子。(呆然)
反対側に車が止まり、別の私服警官らも降りて来る。
すべてを悟る希和子。
笑顔でしゃがみ込み、薫と手を繋いだまま、
「薫、さっき、お船に乗るときのところ行って、並んでいて」(ゆっくりと優しく)
「どうして」
「ママも、すぐ行くから」(明るく)
「…」
立ち上がり、離れようとしない薫を見て、
「…お願い」(搾り出すように)
薫を押し出す希和子。
歩き出し、不安げに立ち止まる薫。
「来て…」
「…行って」(深い悲しみと愛情)
再び、フェリー乗り場に歩き出す薫。
薫の後姿を見て、小さく嗚咽する希和子。(これが最後だとわかっている)
誰も並んでいないフェリー乗り場にきちんと並ぶ薫。
その姿を見て、頷く希和子。(後悔・懺悔・哀しみ・安堵・誇り)
女性私服警官が薫に歩み寄る。
「秋山恵里菜ちゃんね?私たちと一緒にお家に帰りましょう」と薫を抱き上げる。
「ママ、ママ」
その瞬間、希和子に警官たちが押し寄せる。
「お家に帰ろう」と女性私服警官は薫に話しかける。
「ママ、ママ」
「大丈夫、大丈夫」と、車に薫を乗せようと歩き出す女性私服警官。
希和子は両足で踏ん張り、両脇の警官達を振り払い、薫を抱く女性警官に向かって叫ぶ。
「待ってください!待ってください!その子はまだ、ご飯を食べていません」
深々と頭を下げる希和子。
「よろしく御願いします」(搾り出すように)
頭を起こし、薫を見る希和子。(目に焼きつけるように)
「よし、行こうか」と警官らが喜和子を連行していく。
「ママ、ママ、どこへ行くの!」と薫が叫ぶ。
「大丈夫よ」と薫に言い聞かせる女性警官。
「ママ、ママ」の薫の声に何度も振り返る泣き顔の希和子。
演出家・脚本家・映画評論家・演技講師・リーディング講師・ナイトメアプロダクションCEO の6つの顔を持つナイトメアシンジ
良い演技は台本を上手に読むだけでは出来ません。
それはマネキンに過ぎません。
その人物に”血を通わせる”ことなのです。

女性私服警官役は吉田羊。
短いシーンですが演技は存在感があります。
(後のブレイクも頷ける)

繰り返しになりますが、たとえ、短いシーンの登場しかなくても演じるなら、その人物のバック・グランドを埋める。いつ、どこで生まれ、どんな性格で、どういう生活をここに来るまで送ってきたのか?そうすれば、容易くその人物になれるはず。役へのアプローチ、演技へのアプローチってそういうこと。”仕事”にするなら、それくらいやるのは当たり前ですよね。 
ナイトメアシンジ


画像出典:eiga.com

ちなみに永作博美は3人組アイドル・グループ「ribbon」出身。アイドル出身の女優は多くいるが、ここまで成功した人は多くない。

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(ナイトメア・シンジ)

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